例えば階段の話

一般の方が設計者を選ぶときに一番参考にするのは、過去の作品写真かもしれません。

実物を見せられないので仕方が無いことなんですが、写真には決して出てこない部分が設計作業の大半です。

確かにとにかく見た目や写真写り優先で物を考える設計者もいます。
施主も同じく見た目だけを求めているという場合はそれでもいいかもしれませんが、特に住宅なんかだと大半の人は違うと思いますし、設計者の多くも同じ思いだと信じています。

例えば階段の寸法を決めるのにどう悩んでいるのか・・・。
階段の使い勝手は踏面という足を乗せる部分の奥行き寸法と、蹴上げという1段あたりの高さ寸法とのバランスが非常に大切です。

建築基準法では一般的な戸建住宅の場合、踏面が15cm以上、蹴上げが23cm以下であればいいことになっています。しかしながらこのぎりぎりのサイズではあまりに急すぎます^^;。
もちろん敷地や床面積の制約からどうしてもそうなってしまう場合もありますが、そうでなくデザインを優先させるあまりに変な階段を作るというのは賛成できません。(もちろん施主がそれを求めている場合は別ですが・・・)

そこで我々がよく使う参考寸法に、旧公庫の規定があります。
この規定だと踏面は19.5cm以上、蹴上げ/踏面が22/21以下になることが必要です。
加えて上りやすさの規定として踏面+(蹴上げ×2)が55cm以上65cm以下となっています。
これは基準法の階段に比べればかなり緩やかです。
実際の使い勝手も、これ以上あれば何とか使えるなと大半の人が納得できるレベルだと思います。
建売住宅などはこのあたりの寸法を基準に作られているものが多いでしょう。

更に高齢者などへの対応を考えたものに旧公庫のバリアフリー規定があります。
これは先ほどの蹴上げ/踏面が更に厳しく6/7以下とされています。

またこれに踏面寸法を20.3cm以上という条件を加えると性能表示の等級5相当となります(これは以前の基準で今は踏面には規定無し、但し等級3では踏面は19.5cm以上)。

このうちのどの寸法を採用していくか・・・。
将来家族に高齢者が出た場合に、1階と2階の行き来をどう考えるかでも違いますし、緩すぎる階段は健常者にとっては逆に使い勝手が悪い場合もあります。
また踏面が上の段の下にどれぐらい食い込んでいるか(蹴込みといいます)によっても状況が変わります。
更に踏み板の材料には既製品サイズもあるので、コストダウンの為にそれらを利用しようと考えればまたそれも寸法に影響して来るわけです。

結局はケースバイケースなわけですが、そのケースをどう考えていくのかが、設計者の悩みどころなわけです。

プロポーションがいいとか、見た目かっこいいとか(もちろんそれも大切ですが)だけで設計しているのではない事が少しでも分かっていただければ幸いです^^。

ちなみに前出の通りケースバイケースですが、私が設計した住宅では踏面は22cm前後にして、勾配は公庫基準の22/21とバリアフリー規定の6/7の間に納めていくことが多いです。

また、ここで書いた寸法についてはあくまで住宅向けの話であって、建物の用途によって基準になる寸法も考え方も全く変わって来ます^^。